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「会社を2億円で売却したら、手取りはいくらになるのか?」
M&A売却で最も見落とされがちなのが税金です。株式譲渡所得税は約20%——つまり2億円で売っても手取りは約1億6,000万円。この現実を知らずに資金計画を立てると、売却後の生活設計が大きく狂います。
私はM&Aアドバイザーとして長年、中小企業オーナーの売却交渉に携わってきました。その経験の中で繰り返し目にしてきたのが「成約後に税金の大きさを初めて知って驚く経営者」の姿です。税金対策は、交渉の席に着く前から始めなければ間に合いません。
この記事では、M&A売却にかかる税金を株式譲渡・事業譲渡それぞれの観点から体系的に解説し、退職金活用や節税のポイントまで詳しく説明します。
株式譲渡の税金:約20%(所得税15%+住民税5%)
個人が保有する株式を譲渡した場合、譲渡益に対して所得税15%+住民税5%=合計20.315%(復興特別所得税含む)の税率が適用されます。この税率は他の所得と合算されない「申告分離課税」であるため、どれだけ利益が大きくても税率は一定です。これが株式譲渡の大きなメリットの一つです。
株式譲渡益の計算方法
課税対象となる「譲渡益」は以下の計算式で求めます。
譲渡益 = 売却金額 − 取得費 − 譲渡費用
計算例:2億円で株式譲渡した場合
取得費(設立時の資本金):1,000万円
譲渡費用(仲介手数料など):500万円
譲渡益:2億円 − 1,000万円 − 500万円 = 1億8,500万円
税額:1億8,500万円 × 20.315% ≒ 約3,758万円
手取り:2億円 − 3,758万円 = 約1億6,242万円
取得費が不明な場合の注意点
設立時の払込証明書や増資時の書類が紛失している場合、税法上の「概算取得費」として売却価格の5%しか計上できません。2億円の売却なら取得費は1,000万円として扱われ、課税対象が1億9,000万円になります。実際の取得費が5%を超えるケースがほとんどですので、書類の保存状況を早めに確認しておくことが重要です。
事業譲渡の税金:法人税(約30%)+ 配当課税(約20%)
事業譲渡は、会社(法人)が事業を売却する形式です。売却益は法人の利益として計上されるため、まず法人税等(実効税率約30%)が課税されます。さらに、残った利益を株主個人に配当として還元する際に配当所得税(約20%)が重ねてかかります。この「二重課税」が事業譲渡の大きな税務上のデメリットです。
株式譲渡 vs 事業譲渡:税負担の比較
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 課税主体 | 個人(株主) | 法人+個人(二重) |
| 実効税率の目安 | 約20% | 約44%(法人税30%+配当20%) |
| 2億円売却時の税額目安 | 約3,800万円 | 約8,800万円 |
| 2億円売却時の手取り目安 | 約1億6,200万円 | 約1億1,200万円 |
| 消費税の扱い | 非課税 | 課税資産に消費税発生 |
税負担の観点では、株式譲渡が圧倒的に有利です。同じ2億円の売却でも、スキームの選択によって手取り額に約5,000万円の差が生じます。
事業譲渡を選ぶべきケースはあるか
税率だけ見れば株式譲渡が圧倒的に有利ですが、事業譲渡を選択せざるを得ない、あるいは合理的な理由がある場面も存在します。アドバイザーとして現場で経験してきたケースを整理します。
- 特定事業だけを切り離したい場合:複数事業を持つ会社で、収益性の低い一部事業だけを売却し、残りの事業は継続したいとき。株式譲渡は会社ごと売却するため、一部だけの売却には対応できません。
- 簿外債務・偶発債務が多い場合:株式譲渡では簿外債務も買い手が引き継ぎます。過去の訴訟リスクや未払い残業代などのリスクがある場合、買い手が事業譲渡を強く求めることがあります。
- 買い手側のデューデリジェンスリスクが高い場合:税務調査履歴や契約不履行リスクがある企業では、買い手が「株式は買いたくない」と判断し、交渉が事業譲渡に収束するケースがあります。
- 許認可の継承が不要な場合:事業譲渡では多くの許認可が引き継げませんが、許認可に依存しないビジネスモデルであれば問題になりません。
退職金との組み合わせで手取りを最大化する
M&A売却において、税務戦略として最も効果が高いのが「役員退職金の活用」です。退職金には「退職所得控除」という大きな非課税枠があり、給与所得や譲渡所得と比べて税負担が格段に軽くなります。
退職所得控除の計算式
退職所得控除の計算式:
勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
さらに、退職所得は控除後の残額に「1/2」をかけた金額が課税対象となります。
退職金活用シミュレーション(勤続30年の経営者の場合)
勤続30年の経営者が、2億円で株式譲渡した場合の手取りシミュレーションです。
- 退職所得控除:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
- 役員退職金:2,000万円を受け取る場合
- 課税対象退職所得:(2,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 250万円
- 退職金にかかる税額:約250万円 × 税率 ≒ 約50万円
つまり2,000万円の退職金に対してかかる税金はわずか50万円程度。実質的な手取り額は約1,950万円になります。これを株式譲渡益と合算した場合の全体像は以下の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 株式譲渡価格 | 2億円 |
| 株式譲渡税(概算) | ▲3,860万円 |
| 役員退職金収入 | +2,000万円 |
| 退職金にかかる税金 | ▲50万円 |
| 合計手取り(概算) | 約1億8,090万円 |
退職金を活用しない場合の手取りは約1億6,140万円でしたから、約2,000万円近く手取りが増える計算です。退職金の原資は会社の現金から支出されるため、会社に十分なキャッシュがあることが前提となります。
M&A前に税理士へ相談すべき3つのポイント
① 株式の取得費を正確に把握・証明する
株式の取得費が不明だと概算取得費(売却価格の5%)しか使えず、大きな税負担が生じます。設立時の登記書類、増資時の払込証明書、株主名簿などを今のうちに整理しておきましょう。書類が古い場合でも、法務局での登記事項証明書取得などで補完できるケースがあります。
② 役員退職金の適正額を設計する
退職金は「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」を目安に設定します。過大な退職金は税務調査で「不相当に高額」として否認されるリスクがあるため、顧問税理士と業種・規模・同業他社事例をもとに適正額を設計してください。また退職金はM&A成約後に支払うことで、交渉段階での資金流出を防げます。
③ 損益通算・繰越控除を活用する
上場株式の譲渡損失がある場合、非上場株式の譲渡益と損益通算できるケースがあります。また前年以前の譲渡損失の繰越控除(最長3年)も適用対象です。証券口座の損益状況や過去の申告内容を事前に確認しておきましょう。
翌年の税金も必ず資金計画に織り込む
M&A売却で見落とされやすいのが「翌年の住民税」です。株式譲渡所得の住民税(5%)は翌年6月以降に課税されます。2億円の譲渡益なら翌年に約950万円の住民税が来ます。売却金をすべて運用に回してしまうと、翌年の納税資金が不足するリスクがあります。売却金のうち少なくとも住民税相当分は流動性の高い口座に確保しておくことをお勧めします。
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M&A税金に関するよくある質問
Q:株式譲渡と事業譲渡、どちらを選ぶかは誰が決めるのか?
A:最終的には売り手・買い手の合意で決まります。しかし税負担の観点から売り手は株式譲渡を、簿外リスク回避の観点から買い手は事業譲渡を好む傾向があり、スキーム交渉は案件のキモになります。アドバイザーが双方の落としどころを設計します。
Q:オーナーが複数いる場合の税金はどうなる?
A:各株主が保有する持分比率に応じて個別に譲渡益を計算し、それぞれが確定申告します。株主ごとに取得費や取得時期が異なるため、全株主分の書類を事前に整理しておく必要があります。
Q:売却後に役員として残る場合、退職金は受け取れるか?
A:M&A後も役員として残留する場合、税務上「退職」と認められないケースがあります。「分掌変更」(代表取締役→取締役など役割の大幅変更)が行われた場合には退職金が認められる場合もありますが、税理士との事前確認が必須です。
Q:確定申告はどのようにすればよいか?
A:株式譲渡所得は「申告分離課税」のため、給与所得等とは別に確定申告が必要です。売却翌年の2月〜3月に確定申告します。特定口座(源泉徴収あり)での取引とは異なり、未上場株式の譲渡は必ず自己申告が必要です。
Q:海外在住者が日本企業の株式を売却した場合の課税は?
A:居住地国と日本の租税条約の内容によって変わります。日本に源泉地がある株式の譲渡益は日本で課税されることが多く、国際的な二重課税を避けるためにも専門の税理士・税務弁護士への相談が欠かせません。
まとめ:税金対策は売却の6ヶ月前から動き出す
M&A売却の税金対策は、売却プロセスが始まってからでは対応できないケースが多くあります。退職金の設計、取得費の証明書類の準備、スキームの検討——これらはすべて、売却の意思決定から6ヶ月以上前に着手すべき内容です。
特に退職金の設計は、在籍期間・報酬月額・功績倍率のバランスを慎重に設定する必要があり、直前に慌てて大きな退職金を設定すると税務調査で否認されるリスクがあります。
顧問税理士と早期に連携し、株式譲渡・退職金・配当のベストミックスを設計することが、売却手取りを最大化する最も確実な方法です。

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