介護事業M&Aの売却相場と成功のポイント

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「事業承継の候補者がいない」「介護報酬改定のたびに経営が不安定になる」──そんな悩みを抱える介護事業者からのM&A相談が、ここ数年で急増している。私がM&Aアドバイザーとして介護事業案件に初めて関わったのは約10年前だが、当時と比べると相場も買い手の熱量も、そして売り手の危機感も様変わりした。

この記事では、介護事業のM&Aにフォーカスし、売却相場の目安・評価ポイント・成功のために押さえるべき実務のツボを解説する。「うちはいくらで売れるのか」「どんな準備が必要か」を知りたい介護事業者に向けて、現場感覚で書いた。

目次

介護事業M&Aの市場動向(2026年版)

なぜ今、介護M&Aが増えているのか

介護事業のM&Aが活発化している背景には、いくつかの構造的な要因がある。

まず経営者の高齢化と後継者不在だ。介護事業者の多くは2000年前後の介護保険制度スタート期に起業した世代で、創業者が60代後半〜70代を迎えている。子どもに継がせたくても、給与水準の低い介護業界を嫌がるケースが多い。

次に大手・準大手の買収意欲の高さだ。少子高齢化の加速で市場規模は拡大が確実視されており、大手介護グループや医療法人が、地域シェアを一気に拡大する手段としてM&Aを積極活用している。地方の単独事業者でも、エリアさえ合えば複数の買い手が手を挙げる状況が続いている。

さらに人材採用難と規模の経済という問題がある。介護士・ケアマネジャーの採用コストは上昇し続けており、一定の規模を持つ法人でなければ太刀打ちできない状況だ。単独でのサービス継続が難しくなった中小事業者が、大手グループ傘下に入る選択肢を現実的に検討し始めている。

介護報酬改定リスクが売却を後押しする

2024年の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が引き下げられるなど、経営環境は厳しさを増した。報酬改定のたびに収益が揺れる構造への不安から、「上場企業グループの傘下に入って経営を安定させたい」と考える経営者も増えている。これが売り手の供給増につながっており、M&A市場全体の活性化を生んでいる。

主な買い手の属性と狙い

買い手のプロファイルを理解しておくと、交渉時に有利に動ける。介護事業M&Aの主な買い手は大きく3タイプに分かれる。

  • 大手介護グループ・上場企業:地域カバレッジ拡大と規模の経済が目的。スピード成約を好み、PMI体制も整っている
  • 医療法人・病院グループ:医療と介護の連携強化が目的。病院退院後の受け皿として介護施設を求める動きが活発
  • 同業の中堅介護法人:エリア内シェア拡大や同種サービスの補完が目的。現場実務への理解が深く、スタッフへの説明がしやすい場合がある

買い手タイプによって「何を評価するか」が異なる。大手グループは利用者数・稼働率を重視し、医療法人は「病院からの動線」を重視する。自社の強みがどの買い手にとって魅力的かを整理しておくことが、売却戦略の第一歩だ。

介護事業の種類別・売却相場の目安

介護事業と一口に言っても、サービス種別によって相場はかなり異なる。以下は2025〜2026年の実勢感に基づく目安だ。案件の収益性・規模・エリアによって大きく変わるため、あくまで参考値として捉えてほしい。

サービス種別 相場の目安(EV) 評価の主なドライバー
デイサービス(通所介護) EBITDA × 4〜6倍 稼働率・定員充足率・立地
訪問介護 営業利益 × 2〜4倍 スタッフ定着率・訪問件数
訪問看護 営業利益 × 3〜5倍 看護師数・医療依存度の高い利用者比率
グループホーム 5,000万〜1億5,000万円 入居率・建物状態・立地
住宅型有料老人ホーム 1億〜5億円 入居率・介護度・不動産評価

デイサービス(通所介護)の相場

デイサービスはM&A案件の中でも最も流通量が多く、買い手も豊富だ。1拠点あたりの相場感は営業利益の3〜5倍(EBITDAベースで4〜6倍)が目安となる。

  • 年間売上5,000万円・営業利益500万円の単独デイサービス:1,500〜3,000万円程度
  • 複数拠点展開・利益率10%超の法人:5,000万〜1億円超も

稼働率が70%を下回るような施設は値がつきにくい。買い手が欲しいのは「すでに稼働している事業」であり、空白の施設を引き継ぐことには二の足を踏む。稼働率と利用者数の安定が、最大の評価ポイントだ。

訪問介護・訪問看護の相場

2024年の報酬改定で訪問介護への逆風が強まり、売却を急ぐ事業者が増えた。反面、買い手側の慎重姿勢も強まっており、相場は営業利益の2〜4倍程度にやや軟化している。

訪問看護は看護師の資格保有者が主力人材であり、スタッフの定着・引き継ぎが評価を大きく左右する。「経営者が変わったら離職するリスクがある」と見られる案件は、厳しい評価になる傾向がある。一方、医療依存度の高い利用者(点滴・人工呼吸器管理など)を多数抱えるステーションは、診療報酬との連携でも価値が高く評価される。

有料老人ホーム・グループホームの相場

施設系は土地・建物の不動産評価が絡むため、案件規模が大きく、相場の幅も広い。おおよその目安は以下の通りだ。

  • グループホーム(定員18名前後):5,000万〜1億5,000万円
  • 住宅型有料老人ホーム(50床規模):1億〜5億円
  • 特別養護老人ホームは社会福祉法人格が必要なため、M&Aには制度上の制約が大きい

施設系では入居率が価格を大きく動かす。入居率90%超の施設は強い買い手がつくが、空室が目立つ施設は買い手が慎重になる。入居者の平均介護度(重度化しているほど報酬単価が高い)も評価指標のひとつだ。

介護事業M&A特有の注意点

💡 介護事業M&A特有の注意点のポイント

株式譲渡の場合:法人格が変わらないため、指定は原則そのまま引き継げる。手続き負荷が低く、サービスの継続性が保ちやすい
💡事業譲渡の場合:買い手が新たに指定申請を行う必要がある。申請から指定まで数ヶ月かかり、その間はサービスを継続できないリスクがある
⚠️クロージング後の告知タイミングと方法を事前に買い手と合意しておく
🔑キーパーソンへの処遇(給与・役職継続)を売却条件として交渉する
📌売主が一定期間(6ヶ月〜1年)顧問やアドバイザーとして関与し、スタッフ・利用者の関係を引き継ぐ

指定申請と介護報酬の承継問題

介護事業の肝は「指定(許認可)」だ。介護保険サービスを提供するには、都道府県または市区町村から事業者指定を受ける必要がある。M&Aの手法によって指定の取り扱いが変わる点は必ず押さえておきたい。

  • 株式譲渡の場合:法人格が変わらないため、指定は原則そのまま引き継げる。手続き負荷が低く、サービスの継続性が保ちやすい
  • 事業譲渡の場合:買い手が新たに指定申請を行う必要がある。申請から指定まで数ヶ月かかり、その間はサービスを継続できないリスクがある

介護事業のM&Aで株式譲渡が選ばれることが多い理由のひとつがここにある。事業の継続性と利用者保護の観点から、株式譲渡の方がスムーズにクロージングできるケースが大半だ。また、過去に行政指導・改善勧告・指定取り消し処分を受けた履歴があると、買い手のDDで必ず問題になる。こうした履歴がある場合は、事前に専門家と対応策を相談しておく必要がある。

人材(介護士・ケアマネ)の離職リスク

介護事業において最大の資産は「人」だ。利用者との関係性を支えるのは介護士・ケアマネであり、M&A後にキーパーソンが離職すると、利用者も一緒に離れるリスクがある。

買い手が最も気にするのは「経営者が変わった後も、スタッフは続けてくれるか」という点だ。実務では以下のような対策が有効だ。

  • クロージング後の告知タイミングと方法を事前に買い手と合意しておく
  • キーパーソンへの処遇(給与・役職継続)を売却条件として交渉する
  • 売主が一定期間(6ヶ月〜1年)顧問やアドバイザーとして関与し、スタッフ・利用者の関係を引き継ぐ

利用者・ご家族への情報管理

介護事業では利用者や家族が「経営者が変わった」という情報に敏感に反応する。PMI(統合後プロセス)の段階で、利用者・家族への丁寧な説明を行うことが、サービス継続率を守る上で不可欠だ。「誰が経営者になっても、顔なじみのスタッフはそのまま」というメッセージを早期に届けることが、信頼維持の鍵となる。

加算取得状況が評価を左右する

介護報酬の加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・科学的介護推進体制加算など)を多数取得している事業所は、それだけ売上・利益の水準が高く、買い手評価も上がる。逆に「取れるはずの加算を取っていない」事業所は、実力よりも低く評価されてしまう。売却準備の段階で加算取得状況を専門家に確認し、取りこぼしがあれば申請しておくことを強くすすめる。

売却を成功させる4つのポイント

①財務を「正常収益力」ベースで整理する

介護事業者の中には、法人の経費と個人的な支出が混在した決算書を持つケースが少なくない。経営者の車両費・交際費が法人経費に計上されていたり、役員報酬が相場より大幅に高かったりする。

買い手はデューデリジェンスでこれらを必ず精査する。事前に「正常収益力(実態EBITDA)」を整理し、調整後の収益力を数字で示せる状態にしておくことが、高値売却への近道だ。M&A仲介会社や顧問税理士と一緒に、3期分の決算書を整理しておくことをすすめる。

②売却タイミングは「業績のピーク前後」を狙う

M&Aの売却価格は、直近の業績数字に大きく左右される。「業績が落ちてから売りに出る」のは最も避けたいパターンだ。業績が右肩上がりの時期、あるいは直近期に過去最高益を達成したタイミングで売り出すと、相場より高い評価を引き出しやすい。

介護事業の場合、新規開設から3〜5年で稼働率が安定するサイクルが多い。安定期に入った段階が売却の好機だ。一方、設備の老朽化・スタッフの大量退職・利用者の急減が起きた後では、評価の引き上げに時間と手間がかかる。「いつかは売る」と考えているなら、事業が元気なうちに動き出すことが肝心だ。

③複数の買い手候補と並行交渉する

M&Aは「1社だけと交渉する」よりも「複数社に同時打診する」方が圧倒的に有利だ。特に介護事業では、買い手によって「欲しいエリア」「欲しいサービス種別」が明確に異なる。あなたの事業が「のどから手が出るほど欲しい」買い手を見つけることが、価格を上げる最大の要因になる。

M&A仲介会社を活用する最大のメリットはここにある。仲介会社はマッチング候補を幅広く持っており、競争環境を意図的に作ることで価格交渉力を高めてくれる。

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④「介護M&A実績のある仲介会社」を選ぶ

介護事業のM&Aは業界特有の規制・慣習がある。指定申請の知識、介護報酬の仕組み、都道府県・市区町村との調整など、一般的なM&Aと異なる専門性が必要だ。

選定の際は「介護・医療M&Aの成約件数」と「担当者が業界実務を理解しているか」を必ず確認してほしい。介護事業専門のチームを持つ仲介会社や、医療・介護に特化したFAに相談することが、スムーズな売却への第一歩だ。

介護事業M&Aの基本的な流れ(ステップ別)

一般的なM&Aの流れと大きくは変わらないが、介護特有のステップを加味すると以下のようになる。

  1. 相談・秘密保持契約(NDA)締結:M&A仲介会社に相談し、情報漏洩を防ぐNDAを締結する
  2. 企業価値評価(バリュエーション):財務数値と事業実態から売却価格レンジを算定する
  3. ノンネームシート・IMの作成:匿名の段階で買い手候補にアプローチし、関心度を確認する
  4. トップ面談:経営者同士の初顔合わせ。介護事業では「人」と「企業文化」の相性も評価される
  5. 基本合意書(LOI)締結:価格・条件の大枠を合意し、独占交渉権が発生する
  6. デューデリジェンス(DD):財務・法務・労務・介護指定に関するDDを実施する。指定に関する行政処分歴なども確認対象になる
  7. 最終契約・クロージング:株式譲渡契約書(SPA)を締結し、代金決済を行う
  8. 行政への届出・PMI:指定に関する変更届出、スタッフ・利用者・家族への説明を行う

全体のスケジュールは相談開始から成約まで6ヶ月〜1年程度が一般的だ。財務整理やスタッフの状況によってはさらに時間がかかる場合もある。早めに動き出すことが、焦らず有利な条件で売却できる秘訣だ。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字でも介護事業は売れますか?

赤字でも売れるケースはある。特に「エリアの希少性が高い」「大手が参入したいが自前では難しいエリアにある」「稼働率は低いが施設・設備が新しい」といった条件が揃う場合は、買い手が改善余地に価値を見出すことがある。ただし評価額は低くなる傾向があり、売却の選択肢を広げるためにも黒字化してから相談することが理想だ。

Q. 社員にM&Aを相談したいのですが、バレると困ります。どうすればいいですか?

M&Aの検討段階では、スタッフへの情報開示は基本合意書締結後まで控えるのが一般的だ。仲介会社との相談・書類準備・買い手候補との面談はすべてNDAで秘密が守られた状態で進められる。社内の経理担当者に限定的に関与させる場合は、情報管理の範囲を明確に絞ることが重要だ。

Q. 売却後、自分はどうなりますか?辞めなければなりませんか?

売却後の処遇は交渉次第だ。大手グループへの売却の場合、売主が「エリアマネージャー」や「顧問」として一定期間残るケースは多い。完全引退を希望する場合でも、引き継ぎ期間(通常6ヶ月〜1年)は在籍することが買い手から求められるのが一般的だ。条件は基本合意書の段階でしっかり交渉しておくことが大切だ。

Q. 介護事業のM&Aにかかる費用(仲介手数料)はどれくらいですか?

仲介会社の手数料は成功報酬型が主流で、成約金額に対して3〜5%程度が多い。最低報酬額(最低手数料)を設定している会社も多く、小規模案件では相対的に手数料率が高くなる場合がある。着手金・月額報告料を別途求める会社もあるため、契約前に費用体系を必ず確認しよう。

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まとめ:介護事業M&Aは「準備した者が勝つ」

介護事業のM&Aは、タイミングと準備次第で売却価格が大きく変わる。収益力がある事業・稼働率が高い施設・スタッフが安定している法人には、複数の買い手が手を挙げる状況が続いている。

一方で「売ろうと思ったときに財務が整っていない」「人材の離職リスクが高い」「指定に問題を抱えている」状態では、希望価格を大きく下回るリスクがある。

まず自社の実態EBITDAを計算し、M&A仲介会社に現状を相談するところから始めてほしい。相談は秘密保持契約で守られた状態で行えるため、情報漏洩の心配は不要だ。「まだ売るつもりはない」という段階でも、選択肢を把握しておくことが経営者としての責任だと、私は実務を通じて感じている。動ける状態のうちに、次の一手を広げておいてほしい。

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この記事を書いた人

M&A仲介実務10年、累計成約60件超。元大手仲介会社シニアアドバイザー。
「経営者の人生に寄り添う」をモットーに、中小企業の事業承継からIPO準備企業のバイアウトまで幅広く支援。業界特化型M&Aに強み。表面的な価格算定だけでなく、オーナー経営者の売却後の資産設計・ライフプランまで見据えた戦略提案を得意とする。

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