M&A会社売却後の確定申告|株式譲渡所得の計算と申告5ステップ

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M&Aで会社を売却した翌年、「確定申告はどうすればいいのか」と途方に暮れる経営者は少なくありません。長年かけて育てた会社を売り、数億円の売却益を手にしたとしても、税務の手続きを誤れば多額のペナルティを負うリスクがあります。

私はM&Aアドバイザーとして10年以上、50件以上の中小企業M&Aに関わってきましたが、「クロージング後の税務手続きで困った」という声は驚くほど多い。M&A仲介会社がサポートするのはあくまでクロージングまで。その後の確定申告は、経営者自身が税理士と向き合って進める必要があります。

この記事では、M&A(株式譲渡)で会社を売却した後の確定申告について、計算の仕組みから申告手順、節税の考え方まで、実務目線でわかりやすく解説します。

目次

M&A会社売却後に確定申告が必要な理由

「M&Aで株式を譲渡したら税金を払う」というのは多くの経営者が知っています。しかし、「なぜ確定申告が必要なのか」「そもそも会社が源泉徴収してくれないのか」という疑問を持つ方も多い。まずここを整理しましょう。

株式譲渡益は「申告分離課税」の対象

株式の売却によって得た利益(譲渡所得)は、給与所得や事業所得とは切り離して計算・申告する「申告分離課税」の対象です。税率は一律で、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)+住民税5%=合計20.315%となります。

給与や配当のように、支払いの際に税金が天引き(源泉徴収)されることは基本的にありません。そのため、売却益を受け取った翌年の2月16日〜3月15日に、自分で確定申告書を作成・提出し、税金を納付する必要があります。

非上場株式の譲渡は自動的に課税されない

上場株式であれば、特定口座(源泉徴収あり)を使っている場合、証券会社が自動的に税金を計算・納付してくれます。しかし、中小企業のM&Aで譲渡されるのは「非上場株式」です。非上場株式の売買には証券会社の特定口座のような仕組みがないため、売り手は原則として自分で確定申告をする義務があります。

仮に確定申告を忘れたまま放置していると、税務署から「お尋ね」と呼ばれる照会文書が届くケースもあります。M&Aのクロージングは法務局への変更登記などを通じて記録が残るため、税務署が把握するのは時間の問題です。申告漏れには無申告加算税(最大20%)や延滞税が課されるリスクがあるので、必ず期限内に申告してください。

株式譲渡所得の計算方法

📋 株式譲渡所得の計算方法の流れ

Step 1譲渡価額:M&Aで受け取った株式売却代金の総額
Step 2取得費:株式を取得したときの購入金額(設立時の払込額や過去の増資額など)
Step 3譲渡費用:株式の売却にかかった直接費用(後述)

確定申告で最も重要なのは、課税対象となる「株式譲渡所得」をどう計算するかです。計算ミスは過少申告につながり、後日追徴課税を受けるリスクがあります。

課税対象となる譲渡所得の計算式

株式譲渡所得は、以下の式で計算します。

株式譲渡所得=譲渡価額(売却代金)−取得費−譲渡費用

  • 譲渡価額:M&Aで受け取った株式売却代金の総額
  • 取得費:株式を取得したときの購入金額(設立時の払込額や過去の増資額など)
  • 譲渡費用:株式の売却にかかった直接費用(後述)

たとえば、設立時に300万円を出資して会社を立ち上げ、M&Aで3億円で売却した場合、単純計算で約2億9,700万円が課税対象の譲渡所得となります。この金額に20.315%をかけた約6,033万円が納税額の目安です。

取得費・取得価額の考え方と証明書類

取得費は株式を取得した際の金額ですが、「いつ・いくらで取得したか」を証明する書類が必要です。よく問題になるケースを整理しましょう。

設立時出資の場合:会社の設立登記書類や定款、払込金保管証明書が根拠となります。多くの場合、資本金の額が取得費の基礎となります。

増資・株式購入の場合:過去に増資した際の払込記録や株式売買契約書が必要です。古い書類が紛失していることも多く、この点が確定申告の最大の難関になります。

相続・贈与で取得した株式の場合:被相続人(前オーナー)が取得した際の金額が引き継がれます。被相続人の取得原価が不明な場合は「概算取得費」として譲渡価額の5%を用いることができますが、これでは取得費が極めて低くなり税負担が大幅に増えます。相続前に書類を整理しておくことが重要です。

仲介手数料は「譲渡費用」として経費算入できるか

M&A仲介会社に支払う成功報酬(仲介手数料)は、株式の譲渡に直接要した費用として「譲渡費用」に算入できます。仲介手数料は売却金額の3〜5%程度が相場であり、数百万〜数千万円になるケースもあります。しっかり経費算入することで、課税される譲渡所得を圧縮できます。

なお、M&Aの成否にかかわらず発生した費用(たとえば初期の相談料や、最終的に取引が成立しなかった案件の費用)は譲渡費用として認められないケースがあります。成功報酬の請求書・領収書は必ず保管しておきましょう。

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確定申告の5ステップ|M&A売却後の手続き手順

📋 確定申告の5ステップ|M&A売却後の手続き手順の流れ

Step 1株式譲渡契約書(M&Aのクロージング時に締結したもの)
Step 2クロージング時の振込明細・入金確認書類(譲渡価額の証明)
Step 3株式の取得費を証明する書類(設立時の払込証明・定款・増資関連書類)
Step 4M&A仲介手数料の請求書・領収書
Step 5弁護士・税理士等の専門家費用に関する領収書(M&Aに直接関連するもの)

実際の申告手続きを、5つのステップに分けて解説します。税理士に依頼する場合でも、この流れを理解しておくと打ち合わせがスムーズです。

ステップ1:必要書類を揃える

確定申告で必要となる書類を早めに揃えましょう。主なものは以下の通りです。

  • 株式譲渡契約書(M&Aのクロージング時に締結したもの)
  • クロージング時の振込明細・入金確認書類(譲渡価額の証明)
  • 株式の取得費を証明する書類(設立時の払込証明・定款・増資関連書類)
  • M&A仲介手数料の請求書・領収書
  • 弁護士・税理士等の専門家費用に関する領収書(M&Aに直接関連するもの)
  • マイナンバーカードまたは通知カードと本人確認書類

これらの書類が揃っていないと申告作業が止まってしまいます。特に取得費の証明書類は、クロージング後に慌てて探しても見つからないケースが多いため、M&A交渉の段階から意識して準備しておくことをお勧めします。

ステップ2:株式譲渡所得を計算する

前述の計算式に基づき、課税対象となる譲渡所得を算出します。税理士に依頼する場合は、ステップ1の書類一式を渡せば計算してもらえますが、数字の根拠は自分でも理解しておきましょう。

特に「取得費」の計算は複数の株主がいる場合や、過去に有償増資・株式分割があった場合に複雑になります。1株あたりの取得単価を正確に計算するために、会社設立から売却までの株主名簿・増資の変遷を時系列で整理すると作業が進みやすいです。

ステップ3:確定申告書を作成する

株式譲渡所得の申告には「確定申告書B」と「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書(申告書第三表)」が必要です。国税庁の確定申告書等作成コーナー(e-Tax)を使えば、画面の指示に従って入力するだけで書類を作成できます。

入力する主な項目は以下の通りです。

  • 譲渡価額(売却代金合計)
  • 取得費(株式の取得原価)
  • 譲渡費用(仲介手数料等)
  • 差引金額(=課税所得)

なお、給与所得など他の所得とは合計せず、株式譲渡所得は別枠で計算・申告します(分離課税)。

ステップ4:申告書を提出する

申告期間は毎年2月16日〜3月15日です。M&Aで売却益が発生した年の翌年に申告します。たとえば2025年12月にクロージングした案件は、2026年2月16日〜3月15日が申告期間です。

提出方法は主に3つあります。

  • e-Tax(電子申告):マイナンバーカードがあれば自宅から提出可能。最も手軽。
  • 郵送:申告書を印刷・記入して管轄の税務署に郵送。
  • 税務署窓口への持参:申告期間中は税務署や確定申告会場に直接持参できる。

税理士に申告を依頼する場合、税理士が代理で電子申告することが多いです。依頼する場合は、申告期限の1〜2か月前には相談を開始するよう心がけましょう。特にM&Aの翌年の確定申告シーズン(1〜3月)は税理士が繁忙期になるため、早めの連絡が重要です。

ステップ5:納税する

確定申告書を提出したら、算出した税金を期限(3月15日)までに納付します。納付方法はe-Tax経由の振替納税、クレジットカード払い、コンビニ納付、金融機関窓口払いなど複数あります。

住民税については、確定申告書の情報が市区町村に通知され、翌年6月以降に「住民税の納税通知書」が届きます。株式譲渡所得に係る住民税(5%)は、確定申告とは別に納付することになるため、こちらも忘れずに対応してください。

M&A売却益を合法的に節税する3つの方法

「20.315%の税率は変えられないのか」と考える経営者は多いですが、実は手順を踏めば節税できる余地はあります。ただし、いずれもM&Aのクロージング前に仕込んでおく必要があるものが多く、「売却が決まってから」では間に合わないケースも少なくありません。

1. 役員退職金を活用した法人税・所得税の圧縮

M&Aの株式譲渡の前に、経営者が役員退職金を受け取る方法があります。会社にとっては退職金が損金(経費)に算入されるため法人税が減り、会社の利益が圧縮されることで純資産価値が下がり、株式の時価評価額を引き下げる効果も期待できます。

また、役員退職金は個人の受取側でも優遇されており、「退職所得控除」が適用されたうえで課税所得が1/2になるため、給与所得よりはるかに有利な税率が適用されます。功績倍率の設定や適正額の考え方については、税理士と慎重に検討してください。なお、M&Aの買い手側との交渉や合意が必要なため、事前にM&A仲介会社を通じて買い手の了解を取り付けることが重要です。

2. 取得費加算の特例(相続で取得した株式の場合)

相続によって株式を引き継いだ経営者がM&Aで売却する場合、「取得費加算の特例」を活用できることがあります。これは、相続した財産を相続開始から3年10か月以内に売却した場合、相続税のうち一定額を取得費に加算できる特例です。

取得費に加算される金額が増えると課税所得が圧縮され、実質的な税負担を軽減できます。親族からの承継・事業承継を経てM&Aに至るケースでは、この特例の適用可否を必ず確認しましょう。申告期限を過ぎると遡って適用することはできないため、相続とM&Aのタイミングに注意が必要です。

3. 譲渡損失との損益通算・繰越控除

M&Aで売却した株式に利益が出ている一方、他に株式投資などで損失が出ている場合、損益通算によって課税所得を圧縮できます。上場株式の譲渡損失と非上場株式の譲渡益は、同じ「株式等の譲渡所得」の区分の中で原則として損益通算が可能です(ただし一定の制限あり)。

また、上場株式等の譲渡損失は3年間の繰越控除が認められています。保有している投資用株式や投資信託のポートフォリオを見直し、含み損のある銘柄を売却して損益通算するという手法は、M&Aが確定したタイミングで検討する価値があります。

確定申告でよくある失敗と注意点

実務の現場で見聞きした「やりがちなミス」を挙げます。いずれも事前に対策できるものばかりです。

失敗1:取得費の証明書類がない

中小企業の創業オーナーがM&Aで売却する場合、設立から30年・40年が経過していることも珍しくありません。設立当時の払込証明書類や古い増資の書類が紛失しているケースは非常に多く、取得費の証明が困難になります。

取得費が証明できない場合、税務上は「取得費不明」として譲渡価額の5%を取得費とみなす「概算取得費」が適用されます。3億円で売却したなら150万円しか取得費を計上できず、残りの2億9,850万円が課税所得となってしまいます。

会社の登記情報や古い株主総会議事録、銀行の振込履歴などから間接的に取得費を立証できる場合もあるため、書類が見当たらない場合は諦めず税理士に相談しましょう。

失敗2:申告期限を見落とす

「M&A後は忙しくて確定申告を忘れた」という声も耳にします。特に、M&A後も一定期間は会社に残って引き継ぎをしているケースでは、業務に追われて税務手続きが後回しになりがちです。

無申告の場合、本来の税額に加えて「無申告加算税(原則15%、税務調査後は20%)」と「延滞税(年7.3%〜14.6%程度)」が加算されます。数億円の売却益があれば、ペナルティだけで数千万円規模になることもあります。申告期限の3月15日は必ずカレンダーに記入し、早めに税理士への依頼を進めましょう。

失敗3:税務調査への備えが不十分

M&Aで大きな売却益が発生すると、税務署からマークされやすくなります。クロージングの数年後に税務調査が入るケースもあり、その際に「取得費の計算根拠が説明できない」「譲渡費用として計上した経費の領収書がない」といった状況になると、追徴課税のリスクが高まります。

M&Aに関連するすべての書類(契約書・請求書・領収書・メール記録など)は、申告後も最低7年間は保管しておくことをお勧めします。また、確定申告書に添付した書類のコピーも手元に残しておくと、万が一の調査対応に役立ちます。

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M&A後の確定申告に強い税理士の選び方

M&Aの売却益に係る確定申告は、一般的な確定申告に比べてはるかに複雑です。通常の個人税務申告しか経験のない税理士では、最適な対応ができないこともあります。以下のポイントを参考に、適切な税理士を選びましょう。

M&A・株式譲渡の申告実績があるか

確定申告の依頼先を選ぶ際は、「非上場株式の譲渡申告の経験がありますか」と直接聞いてみましょう。経験豊富な税理士であれば、取得費の整理方法や節税オプションについて、具体的なアドバイスをくれます。

M&A仲介会社と連携できるか

M&Aのクロージング後も、買い手側から表明保証違反の指摘が来たり、アーンアウト(業績連動型追加対価)の支払いが発生したりするケースがあります。税務上の処理が複雑になる場面もあるため、M&A仲介会社と連携実績のある税理士を選ぶと安心です。

資産運用・相続税も含めたトータル相談ができるか

M&Aで大きな売却益を得た後は、資産運用や相続対策が次の課題になります。株式譲渡の確定申告だけでなく、その後の財産設計まで見据えたアドバイスができる税理士・FPチームと組むことが、長期的な資産防衛につながります。

まとめ:M&A売却後の確定申告は「早め・正確・証拠保全」が鉄則

M&Aで会社を売却した後の確定申告は、決して難しい手続きではありません。しかし、「書類の準備」「期限の遵守」「節税の仕込み」という3点で手を抜くと、本来払わなくてよかった税金や加算税を負担するリスクが生まれます。

特に重要なのは、M&Aのクロージング前に節税の手を打っておくことです。役員退職金の活用や損益通算は、「M&Aが決まってから」では間に合わない場合があります。売却プロセスの早い段階で税理士を交えた相談を行うことを強くお勧めします。

  • 株式譲渡所得は申告分離課税(20.315%)の対象
  • 取得費・譲渡費用を正確に計上して課税所得を圧縮する
  • 役員退職金の活用・損益通算はクロージング前に検討
  • 申告期限(3月15日)と書類保管(7年)を厳守
  • M&A・株式譲渡の実績がある税理士に早めに相談

数億円という人生最大の売却益を手にした後だからこそ、税務の手続きもしっかりと完結させてください。適切な申告と節税対策で、手取り額を最大化しましょう。

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この記事を書いた人

M&A仲介実務10年、累計成約60件超。元大手仲介会社シニアアドバイザー。
「経営者の人生に寄り添う」をモットーに、中小企業の事業承継からIPO準備企業のバイアウトまで幅広く支援。業界特化型M&Aに強み。表面的な価格算定だけでなく、オーナー経営者の売却後の資産設計・ライフプランまで見据えた戦略提案を得意とする。

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