建設業M&Aの許可承継手続き|経営業務管理責任者・専任技術者の引き継ぎ方

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「建設業許可は、M&A後も引き継げるのか?」

建設業のM&Aで最も複雑なのが、建設業許可の承継です。許可が引き継げなければ、買収後に工事を受注できず、事業価値が実質的に消滅します。

私がM&Aアドバイザーとして建設業案件に関わる中で、「許可の扱いを軽く見ていたために、クロージング後に大きなトラブルになった」という事例を何度も見てきました。建設業のM&Aは、通常の業種以上に、許可・資格・人材という3つの要素が複雑に絡み合います。

この記事では、建設業M&Aにおける許可承継の手続き、経営業務管理責任者(経管)・専任技術者(専技)の引き継ぎ方を、実務の視点から詳しく解説します。

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目次

建設業許可の承継:スキームによって結論が変わる

まず大前提として理解していただきたいのが、M&Aのスキーム(手法)によって、許可の承継可否がまったく異なるという点です。主に「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」の3つのスキームがあり、それぞれで対応が変わります。

スキーム 許可の承継 手続きの手間
株式譲渡 自動承継(変更届のみ) 少ない
事業譲渡 承継不可(再取得必要) 非常に多い
会社分割(吸収分割) 認可換えで承継可能 中程度

以下、それぞれのスキームについて詳しく説明します。

株式譲渡なら建設業許可は自動承継される

結論から言うと、株式譲渡によるM&Aなら、建設業許可は自動的に承継されます。

株式譲渡は「会社の株主が変わるだけ」で、法人格自体は変わりません。建設業許可を取得している法人がそのまま存続するため、許可番号も変わらず、そのまま使い続けられます。これが、建設業M&Aで株式譲渡が選ばれやすい最大の理由です。

株式譲渡で必要な手続き

株式譲渡の場合、建設業許可の「変更届」を提出するだけです。新たに許可を取り直す必要はありません。

提出書類 提出期限
役員等の変更届(様式第22号の2) 変更後2週間以内
株主の変更届(様式第22号の2) 変更後30日以内
経営業務管理責任者の変更届(変更がある場合) 変更後2週間以内

この変更届は、建設業許可を取得した都道府県または国土交通大臣(大臣許可の場合)に提出します。なお、変更届の提出が遅れると行政指導の対象になることがあるため、クロージング後は速やかに手続きを進めましょう。

株式譲渡でも注意すべきポイント

株式譲渡でも油断は禁物です。以下の点には特に注意が必要です。

  • 役員が全員交代する場合:経管の要件を満たす役員が引き続き在籍しているかを確認する
  • 本店所在地が変わる場合:許可行政庁への届出が必要になるケースがある
  • 商号変更を伴う場合:商号変更届の提出が必要

これらの変更が重なると手続きが複雑になるため、行政書士との事前連携をおすすめします。

事業譲渡の場合は許可の再取得が必要

一方、事業譲渡の場合は、建設業許可は承継されません。買い手企業が改めて建設業許可を取得する必要があります。

事業譲渡は「事業だけを切り出して売る」形式のため、法人格が変わります。建設業許可は「法人に紐づく許可」なので、法人が変われば許可も失効します。

事業譲渡で許可を取得し直す際のリスク

建設業許可の新規取得には、以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 経営業務管理責任者(経管)が在籍している:建設業で5年以上の経営経験がある役員
  • 専任技術者(専技)が在籍している:一定の資格または実務経験を持つ技術者
  • 財産的基礎がある:自己資本500万円以上または同額の資金調達能力
  • 誠実性の要件:請負契約に関して不正・不誠実な行為をする恐れがない
  • 欠格要件に該当しない:役員が刑事罰を受けていないなど

特に「経管」の要件を満たすのが難しく、買い手企業に建設業経験者の役員がいない場合、許可取得まで数ヶ月〜1年かかることもあります。その間は、500万円以上の工事(建築一式工事は1,500万円以上)を受注できないため、売上に直接的な影響が出ます。

会社分割による承継(認可換え)とは

会社分割(吸収分割)を使う場合、建設業法上の「認可換え」という手続きで許可を承継できる場合があります。ただし、この手続きには行政庁への事前相談が必要で、分割前の計画段階から行政書士を交えて調整を進める必要があります。手間と時間がかかるため、活用場面は限られますが、事業の一部だけを切り出すケースでは有力な選択肢になります。

経営業務管理責任者(経管)の引き継ぎ方

経管は、建設業許可の要件の中で最も重要です。経管がいなければ、どのスキームであっても許可は維持・取得できません。M&Aのデューデリジェンス(DD)段階で、現在の経管が誰なのか、買収後もその役割を担える人材がいるかを必ず確認してください。

経管の要件(建設業法第7条)

経管になるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  1. 建設業に関し、5年以上の経営業務管理責任者としての経験がある
  2. 建設業に関し、6年以上の経営業務を補佐した経験がある(取締役等)
  3. 建設業に関し、経営業務管理責任者に準ずる地位で5年以上の経験がある

注意点として、「建設業に関し」という要件があるため、異業種での経営経験は原則として認められません。また、経管は常勤役員である必要があり、非常勤や顧問では要件を満たしません。

M&Aで経管を確保する3つの方法

方法①:売り手経営者を買収後も役員として残留させる

最も確実な方法は、売り手の経営者(経管保有者)を買収後も役員として残留させることです。一般的に「アーンアウト条項」や「役員留任条件」として契約に盛り込みます。ただし、売り手経営者が「引退したい」「すぐに経営から離れたい」と考えている場合は交渉が難しくなります。残留期間の目安は最低でも2〜3年を確保できると安心です。

方法②:買い手企業の役員が経管要件を満たすまで待つ

買い手企業の役員が、建設業での経営経験を5年以上積むまで待つ方法です。ただし、その間は500万円以上の工事を受注できないという制約が生じるため、現実的には売上規模が大幅に縮小します。中長期的な視点での事業計画が必要です。

方法③:外部から経管要件を満たす役員を招聘する

建設業で5年以上の経営経験がある人材を、外部から役員として招く方法です。建設業界のOBや、他の建設会社の元役員などが候補になりますが、適任者を見つけるのは容易ではありません。人材紹介会社や業界団体のネットワークを活用することになります。

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専任技術者(専技)の引き継ぎ方

専技は、建設業の種類(土木・建築・電気・管工事等)ごとに必要です。専技がいなければ、その業種の許可は維持できません。建設業許可は29業種に分かれており、業種ごとに専技を置く必要があるため、多業種の許可を持つ会社ほど、専技の管理が複雑になります。

専技の要件

専技になるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

  1. 国家資格を保有している(1級建築士・1級土木施工管理技士・1級管工事施工管理技士等)
  2. 大学・高校で指定学科を卒業し、3年〜5年の実務経験がある
  3. 10年以上の実務経験がある

なお、特定建設業(元請として4,000万円以上の工事を下請けに出す場合)では、専技に「監理技術者資格者証」が必要になるなど、要件がさらに厳しくなります。

M&Aで専技を確保するための具体的施策

最も重要なのは、売り手企業の専技(技術者)を買収後も雇用し続けることです。専技が退職してしまうと、その業種の許可が失効します。

現場の技術者はM&Aに対して不安を感じやすく、「会社が変わったら処遇が下がるのでは」「職場環境が変わるのでは」という懸念から退職を検討するケースがあります。買収交渉の段階から以下の施策を講じることが重要です。

  • 早期の説明会実施:買収後の経営方針・処遇方針を速やかに社員に説明する
  • 処遇改善の約束:給与・資格手当の維持または改善を明示する
  • キャリアパスの提示:大きな買い手企業の傘下に入ることで、より大きなプロジェクトへの参画機会を示す
  • PMIでの丁寧な統合:買収直後のPMI(統合プロセス)で、現場の不安を丁寧に解消する

デューデリジェンスで確認すべき許可・資格の項目

建設業M&AのDD段階では、以下の項目を必ず確認してください。許可に関わる問題が後から発覚すると、取引価格の見直しや最悪の場合は取引の破談につながります。

確認項目 確認ポイント
許可の有効期限 5年ごとの更新が必要。失効していないか確認
許可業種の範囲 取得済み業種と実際の業務範囲が一致しているか
経管の在籍状況 現在の経管が誰か、買収後も残るかどうか
専技の在籍状況 業種ごとの専技が誰か、資格証明書の有無
監理技術者・主任技術者 現場配置可能な有資格者の人数
行政処分歴 指示処分・営業停止処分の有無
経営事項審査(経審)の状況 公共工事を受注している場合は経審スコアも確認

建設業M&Aの許可承継|失敗事例

失敗事例①:専技の一斉退職で許可失効

土木工事業の買収後、買い手企業の経営スタイルに不満を持った専技である1級土木施工管理技士が複数名、短期間に退職。買い手企業には土木の有資格者がおらず、土木工事業の許可が失効。受注済みの工事を他社に外注せざるを得なくなり、利益率が大幅に悪化したケースは業界でもよく聞く話です。PMI段階でのコミュニケーションの重要性を示す典型的な事例といえます。

失敗事例②:経管要件を満たせず長期間にわたり制約を受ける

事業譲渡で建設業を買収したものの、買い手企業には建設業経験の役員がおらず、経管要件を満たせなかったケースもあります。「500万円未満の工事のみ」という制約の中で事業を継続することになり、売上・利益ともに当初計画を大幅に下回るリスクがあります。事業譲渡を選ぶ際は、経管の確保を最優先課題として位置づけてください。

失敗事例③:許可の有効期限切れに気づかず

建設業許可は5年ごとに更新が必要です。M&Aの交渉・クロージングに時間がかかっている間に、許可の更新期限が迫っていたにもかかわらず、誰も気づかずに有効期限が切れてしまったケースがあります。許可が失効すると、再取得が必要になります。DDの段階で許可の有効期限を必ず確認し、クロージングまでに更新手続きを完了させておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 大臣許可と知事許可、M&Aで変わることはありますか?

A. 株式譲渡であれば、大臣許可・知事許可ともにそのまま承継されます。ただし、買収後に営業所の所在地が変わる場合(例:複数都道府県にまたがる場合)は、知事許可から大臣許可へ「許可換え」が必要になることがあります。

Q. 専技と経管は同一人物でも大丈夫ですか?

A. 原則として可能です。ただし、その人物が退職した場合、経管と専技の両方を同時に失うリスクがあります。できる限り、経管と専技は別の人物が担うことを推奨します。

Q. M&A後に許可業種を増やしたい場合はどうすればよいですか?

A. 業種追加の申請を行政庁に提出します。新たな業種の専技要件を満たす人材が必要になります。買収対象会社が持つ人材・資格をうまく活用することで、業種の拡大ができる場合もあります。これはM&Aのシナジーとしても評価できます。

Q. 経審(経営事項審査)はM&A後に影響がありますか?

A. 影響します。経審スコアは財務状況・技術者数・社会保険加入状況などで決まります。買収後に組織再編や人員整理を行うと、スコアが下がり、公共工事の入札資格に影響が出ることがあります。公共工事の比率が高い会社のM&AではPMIで経審スコアの維持・向上を意識した経営が必要です。

まとめ:建設業M&Aは「株式譲渡」が鉄則、そして人材確保が最重要

💡 まとめ:建設業M&Aは「株式譲渡」が鉄則、そして人材確保が最重要のポイント

経管・専技が誰なのかを明確にし、書類を整備しておく
💡専技(技術者)の雇用継続を買い手に対して明示的に働きかける
⚠️建設業許可証・許可申請書類・経審資料を整備しておく
🔑許可の有効期限を確認し、必要であればM&A前に更新しておく
📌DDの段階で経管・専技・許可の有効期限を徹底確認する

建設業M&Aで許可承継をスムーズに進めるには、株式譲渡を選択することが鉄則です。事業譲渡を選ぶと、許可の再取得に時間がかかり、その間は大型工事を受注できません。また、経管・専技の確保も容易ではありません。

さらに強調したいのは、許可の問題は「制度」だけでなく「人」の問題でもあるという点です。経管・専技という人材が在籍し続けることが、許可の維持に直結します。買収後のPMIで現場の技術者が離職しないよう、処遇改善・コミュニケーションに注力することが、建設業M&Aを成功させる鍵です。

売り手・買い手それぞれに整理すると、以下のポイントを押さえてください。

【売り手側の準備】

  1. 経管・専技が誰なのかを明確にし、書類を整備しておく
  2. 専技(技術者)の雇用継続を買い手に対して明示的に働きかける
  3. 建設業許可証・許可申請書類・経審資料を整備しておく
  4. 許可の有効期限を確認し、必要であればM&A前に更新しておく

【買い手側の準備】

  1. DDの段階で経管・専技・許可の有効期限を徹底確認する
  2. 買収後の経管候補を事前に特定しておく
  3. 技術者の処遇改善・キャリアパス提示でリテンション策を講じる
  4. 行政書士と連携し、クロージング後の変更届を速やかに提出する
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この記事を書いた人

M&A仲介実務10年、累計成約60件超。元大手仲介会社シニアアドバイザー。
「経営者の人生に寄り添う」をモットーに、中小企業の事業承継からIPO準備企業のバイアウトまで幅広く支援。業界特化型M&Aに強み。表面的な価格算定だけでなく、オーナー経営者の売却後の資産設計・ライフプランまで見据えた戦略提案を得意とする。

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