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「売却の話が進んでいたのに、買い手から『少数株主をどうにかしてほしい』と言われた」——M&Aの現場では、こういったケースが珍しくありません。
中小企業、とくに同族会社においては、かつて出資してもらった親戚や古参の役員・従業員が少数株主として残っているケースが多くあります。普段の経営では特に問題にならない少数株主の存在も、いざM&Aで株式譲渡を進めようとすると、大きな障壁になることがあります。
筆者はM&Aアドバイザリーとして10年以上、50件以上のM&A案件に関わってきました。その経験の中で、少数株主問題が原因でM&Aの完了が遅延した案件、あるいは破談に近い状況になった案件を複数目にしてきました。
本記事では、同族会社のM&A売却において避けて通れない少数株主問題の本質と、解決するための3つの実務手順を、現場目線で解説していきます。
同族会社でM&Aを進めるときに必ず直面する「少数株主問題」とは
少数株主とは、会社の株式の一部を保有しているが、経営権を持つほどの割合ではない株主のことです。具体的には、議決権の過半数(50%超)を持たない株主を指すことが一般的で、M&Aの文脈では数%〜20%程度の持株比率の株主が問題になるケースが多いです。
同族会社において少数株主が生まれる典型的なパターンは以下の通りです。
- 会社設立時に親族・知人が出資した
- 長年勤めた役員・従業員に自社株を譲渡した
- 相続によって株式が親族に分散した
- 過去の資金調達で第三者に株式を発行した
いずれも、設立・成長期には「応援してくれる人に持ってもらう」という自然な流れで発生します。しかしM&Aを検討し始めた段階で初めて、これが大きな課題になっていることに気づく経営者が多いのです。
なぜ少数株主の存在が問題になるのか。一言で言えば、「全株式を一括して買収したい買い手にとって、見知らぬ少数株主の存在はリスク要因になるから」です。
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少数株主が存在するとM&Aにどんな影響があるのか
買い手が取引を拒否・条件変更するケース
買い手企業の立場から考えると、少数株主が残った状態で株式の大半を取得してもなお、その少数株主との関係を無視できません。たとえば、少数株主から株主総会での反対や、株主代表訴訟のリスクが残ります。また、将来的に少数株主が別の第三者に株式を譲渡した場合、予期せぬ人物が株主になるリスクもあります。
そのため、買い手からは次のような要求が出てくることが多いです。
- 「クロージングまでに全株式を一本化してほしい(少数株主から株式を買い取ってほしい)」
- 「少数株主の持株比率分だけ買収額を減額する(少数株主分は自分で処理してから来てほしい)」
- 「少数株主問題が解決するまで基本合意書の締結を保留する」
最悪の場合、少数株主問題がネックとなって買い手が離脱するケースもあります。売却候補先との交渉が佳境に差し掛かったタイミングで発覚すると、時間的・精神的なダメージは相当なものになります。
企業価値評価(バリュエーション)への影響
少数株主の存在は、単に手続き上の問題だけでなく、企業価値の評価にも影響します。買い手がDCF法や類似企業比較法で算出した企業価値から、少数株主持分に相当する価値を「支配権プレミアム調整」として差し引いて提示するケースがあります。
また、少数株主を整理するためのコスト(株式買取費用や弁護士費用)は、売り手が負担するケースが多く、その分だけ手取り額が減ります。「M&Aで売れた金額は大きいが、少数株主の整理にかなりのコストがかかった」という経験をした経営者も実際にいます。
少数株主問題は、できるだけM&Aのプロセスに入る前の早い段階で把握し、対処の目処をつけておくことが重要です。
少数株主を整理する3つの実務手順
📋 少数株主を整理する3つの実務手順の流れ
少数株主を整理するためのアプローチは大きく3つあります。それぞれ要件・費用・時間軸が異なるため、自社の状況に応じた選択が必要です。
①任意買取による株式集約(最もシンプルな方法)
少数株主と個別に交渉し、合意の上で株式を買い取る方法です。法的な強制力を使わないため、株主が納得して売ってくれれば、手続き上は最もシンプルです。
実務上の流れは以下の通りです。
- 株主名簿を整理し、少数株主の現状(氏名・持株数・連絡先)を把握する
- 株価を算定し、買取価格の根拠を用意する
- 少数株主と個別に接触し、買取の意向を打診する
- 合意が得られたら、株式譲渡契約書を締結する
- 株主名簿を書き換え、株式を集約する
最も難航するのが「株価の合意」です。買い取る側(会社または代表者)は安く買いたいと思う一方、売る側の少数株主はできるだけ高く売りたいと考えます。特に、M&A売却が進んでいることを少数株主が知ると、「売却価格と同じ単価で買い取れ」と要求してくることがあります。
この点については、後述する「株価算定の説明責任」の部分で詳しく解説します。
向いているケース:
- 少数株主が少数(3名以下程度)で、連絡が取れる状態にある
- 少数株主が親族・旧知の仲であり、関係性が良好
- 売却の話をある程度オープンにできる状況
②スクイーズアウト(株式等売渡請求)による強制整理
任意買取で合意が得られない少数株主がいる場合、会社法上の「スクイーズアウト」という手法で強制的に株式を取得することができます。2015年の会社法改正によって整備された制度で、一定の要件を満たすことで少数株主に株式の売り渡しを請求できます。
主な手法は2種類あります。
(A)特別支配株主による株式等売渡請求(会社法179条)
総議決権の90%以上を保有する株主(特別支配株主)は、残りの少数株主に対して、株式の売り渡しを請求できます。少数株主の個別同意は不要で、取締役会の承認と事前通知・公告で手続きを進められます。
要件:対象会社の議決権の90%以上を特定の株主(または親会社)が保有していること
(B)全部取得条項付種類株式を利用した方法
普通株式を全部取得条項付種類株式に転換し、会社が一括取得した後に整数株にならない端数部分を金銭で支払う手法です。手続きが複雑で弁護士費用も高くなる傾向がありますが、90%要件を満たせない場合の代替手段として活用されます。
スクイーズアウトの実務上の注意点
スクイーズアウトを行う際、買取価格の「公正性」が問われます。少数株主から「価格が不当に低い」として価格決定の申立てを裁判所に行われるリスクがあります(取得価格決定申立て)。そのため、第三者の株価算定書を取得して買取価格の客観的根拠を示すことが重要です。
実務上は、弁護士と税理士・公認会計士が連携して進めるケースが多く、費用は50〜150万円程度、期間は2〜4ヶ月程度が目安です。
向いているケース:
- 任意交渉が決裂し、強制的に整理せざるを得ない状況
- 少数株主が連絡不能・所在不明の場合
- 親会社グループで既に90%超を保有している状況
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③株式交換・合併(持株会社化・グループ再編と組み合わせる方法)
少数株主の整理を、事業再編や持株会社設立と組み合わせて行う方法です。M&A前に持株会社(ホールディングス)を設立し、株式交換によって少数株主の持株を持株会社株式に置き換えてから、持株会社ごと売却する手法が代表的です。
この方法は複雑で手続きに時間がかかるため、M&Aを検討し始めた初期段階から税理士・弁護士と相談して設計する必要があります。一般的には、以下のような流れになります。
- 新たに持株会社(ホールディングス)を設立する
- 株式交換により、対象会社の全株式を持株会社が取得する(少数株主は持株会社の株主になる)
- 持株会社の株式を買い手に譲渡する(少数株主の持株会社株式も一括整理するか、別途交渉)
この手法は税務上のメリットもあり(適格株式交換によるグループ法人税制の適用など)、規模が大きい会社や複数の事業会社を抱えるケースで有効です。
向いているケース:
- 売却前からグループ再編・事業分割を予定している
- 複数の子会社・関連会社をまとめて売却したい
- 少数株主が複数いて、一括整理のスキームが必要な状況
少数株主との交渉で気をつけるべきポイント
💡 少数株主との交渉で気をつけるべきポイントのポイント
株価算定の方法と「説明責任」を果たすことの重要性
少数株主との交渉で最も重要なのが、買取価格の設定と根拠の説明です。特に任意買取の場合、売り手と買い手の認識が大きくズレることが多いです。
少数株主側は「M&Aで高く売れるのだから、自分の株も同じ単価で買い取るべきだ」と考えがちですが、これは必ずしも正しくありません。M&Aの売却価格には「経営支配権プレミアム」が乗っているため、少数株主持分には原則としてプレミアムが付きません。
この点を少数株主に納得してもらうためには、第三者の公認会計士・税理士に株価算定書を作成してもらい、客観的な数値を提示することが有効です。「自分たちで計算した価格」ではなく「第三者が算定した価格」という形にすることで、交渉の土台が安定します。
中小企業の株価算定でよく使われる方法は以下の3つです。
- 純資産価額法:会社の純資産(資産-負債)をベースに株価を計算する方法。簿価純資産法と時価純資産法がある
- 類似業種比準価額法:国税庁が定める類似業種の株価と、自社の業績指標を比較して算定する方法。相続税評価でよく使われる
- DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法):将来のキャッシュフローを現在価値に換算する方法。実態に即した価値が算定できる
少数株主向けの任意買取では、税務上の「みなし贈与」問題が発生しないよう、税務上の時価(主に純資産価額法や類似業種比準価額法)を基準とするケースが多いです。この点は税理士と必ず事前確認してください。
「敵対的」な少数株主への対処
稀に、「株式は売らない」「高額でないと応じない」という、いわゆる敵対的な少数株主が存在することがあります。こうした場合、まずは以下を確認します。
- その少数株主との間に過去のトラブルや感情的しこりがないか
- 会社に対して何らかの不満・請求(未払い役員報酬、損害賠償など)を持っていないか
- 株式を「投資」として保有しており、経済的なメリットさえあれば売却に応じる可能性があるか
経済的利益で解決できない場合でも、弁護士を介した正式な通知・交渉を行うことで、相手の態度が変わるケースがあります。また、スクイーズアウトの要件(90%超の保有)を満たしている、あるいは整えられる場合は、それを背景に交渉することも有効です。
どうしても解決できない場合は、弁護士と相談しながら、会社法上の手続きを粛々と進めるしかありません。感情的な対立になると時間もコストもかかるため、早期に専門家を入れることが肝要です。
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事前に少数株主対策を組み込んだM&Aスケジューリングの考え方
少数株主問題は、M&Aのプロセスに入ってから対処しようとすると、時間的なプレッシャーの中で不利な条件を飲まされるリスクが高くなります。理想的には、M&Aを検討し始めた段階——仲介会社に相談する前——から少数株主対策を開始することです。
一般的な少数株主整理のスケジュール感は以下の通りです。
- 任意買取(合意がスムーズな場合):1〜3ヶ月程度
- 任意買取(交渉が難航する場合):3〜6ヶ月以上
- スクイーズアウト(特別支配株主の売渡請求):2〜4ヶ月程度
- 全部取得条項付種類株式を使った手法:3〜6ヶ月程度
M&Aの全体スケジュールは、初期相談から成約まで6ヶ月〜1年半程度かかることが多いです。少数株主整理を並行して進める場合でも、最低3〜6ヶ月の余裕を持って開始することをおすすめします。
また、少数株主対策には費用がかかります。任意買取であれば買取資金と弁護士費用、スクイーズアウトであれば株価算定費用・弁護士費用などが発生します。これらをM&Aのコスト計算に事前に織り込んでおくことで、最終的な手取り額の見通しが立てやすくなります。
M&Aアドバイザーや仲介会社に相談する際は、少数株主の存在を最初からきちんと開示することを強くおすすめします。初期段階での開示が、最終的なM&Aの成功確率を高めます。
少数株主問題を放置したまま売却交渉を進めると何が起きるか
少数株主問題を把握していながら対処せずにM&A交渉を進めると、どのような事態が起きうるのか、整理しておきましょう。
1. デューデリジェンス(DD)での発覚
買い手は基本合意後に法務・財務DDを行います。この過程で株主名簿を確認し、少数株主の存在が明らかになります。事前に開示していなかった場合、「なぜ隠していたのか」と信頼関係が損なわれ、交渉全体が危うくなります。
2. 最終条件の大幅変更
DDで少数株主の問題が判明すると、買い手は価格の引き下げやクロージング条件の追加を要求してきます。「少数株主を売主側の責任でクロージングまでに整理すること」を表明保証の条件として入れてくるケースも多いです。
3. 破談リスク
少数株主が複数いて整理の見通しが立たない場合、買い手がM&A自体を断念するケースもあります。長期にわたる交渉がリセットされ、時間・費用・精神的なコストが無駄になります。
これらのリスクを避けるためにも、少数株主問題は「M&Aを検討し始めたときに最初に確認すべきチェックポイント」として位置付けることが重要です。
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まとめ|少数株主問題はM&A前に必ず解消しておく
同族会社のM&A売却において、少数株主の存在は見落としがちながら、交渉の行方を大きく左右する重要な要素です。本記事のポイントを改めて整理します。
- 少数株主が残った状態でのM&Aは、買い手にとってリスク要因となり、条件交渉が不利になりやすい
- 整理方法は主に「①任意買取」「②スクイーズアウト」「③株式交換・合併」の3つ
- 任意買取は最もシンプルだが、株価の合意形成が最大の難関
- スクイーズアウトは90%超の保有が要件で、価格の公正性確保が必要
- 少数株主整理には最低3〜6ヶ月かかるため、M&Aを検討した段階で早めに着手する
- 買取費用・専門家費用を含めたコスト計算を事前に行い、手取り額の見通しを立てる
少数株主問題は、適切な専門家(弁護士・税理士・M&Aアドバイザー)と連携して進めることで、着実に解決できます。M&Aを具体的に検討し始めたオーナーの方は、まず自社の株主名簿を改めて確認するところから始めてみてください。

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