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「うちは赤字だから、M&Aなんて無理だろう……」
こんな思い込みで、早々に売却を諦めている経営者が実は少なくない。M&Aアドバイザーとして現場に関わってきた経験からいうと、赤字会社や債務超過の会社でも、売れるケースは確実に存在する。ただし、何でも売れるわけではない。買い手がつく会社とつかない会社の間には、明確な違いがある。
この記事では、赤字・債務超過でも売却できる条件、使えるスキーム、企業価値評価の実態、そして事前に打っておくべき手を、実務経験者の視点でできる限り具体的に解説する。廃業を決断する前に、ぜひ一度読んでほしい。
赤字・債務超過でもM&Aで売れる?まず結論から
結論から言えば、「売れる可能性はある」が、前提条件が整っていなければ難しい。
M&Aにおける企業価値は、財務諸表の数字だけで決まるわけではない。買い手が求めているのは「将来の利益」であって、現在の赤字は必ずしも致命的ではない。重要なのは、その赤字が一時的なものか構造的なものか、そして貸借対照表には表れない「非財務的価値」が存在するかどうかだ。
実際、中小企業庁の調査では、後継者不在を理由に廃業を検討している黒字企業が多数存在する一方で、財務が苦しくても事業に独自の価値を持つ会社がM&Aで事業継続を果たすケースも報告されている。財務状況だけで諦めるのは、早計だ。
売れるケースと売れないケースの違い
| 売れるケース | 売れないケース |
|---|---|
| 許認可・資格・ブランドに価値がある | 事業に特段の強みがない |
| 優良顧客との長期契約がある | 顧客基盤が属人的で移転困難 |
| 赤字の原因が役員報酬・一時費用など整理可能 | 構造的な収益悪化で改善見込みなし |
| 土地・設備など有形資産の価値が高い | 純資産がマイナスで担保価値もない |
| 専門技術・人材が蓄積されている | キーマン依存で人材の承継が困難 |
| 市場自体は成長しており参入障壁がある | 市場が縮小・陳腐化しており回復が見込めない |
買い手がつく赤字会社の5つの特徴
① 優良な顧客基盤・長期契約がある
赤字でも、安定した取引先や長期継続契約があれば話は変わる。製造業やIT企業でよく見るパターンだが、大手から定期的な受注があり、その関係性を引き継げる場合は買い手の評価が大きく変わる。月次の売上が読める「ストック型ビジネス」の構造を持っていれば、たとえ現状が赤字でも、コスト構造を見直せば黒字転換が見えると判断される。
特に評価が高いのは、売上に占める上位顧客の比率が適度に分散しており、かつ解約率(チャーン率)が低いケースだ。特定顧客への依存度が80%を超えるような構造は、逆に買い手のリスク認識を高めてしまう点に注意が必要だ。
② 許認可・資格・ブランドに価値がある
建設業の経営事項審査点数、医療・介護の指定許可、飲食の営業許可、廃棄物処理業の許可など、取得に時間とコストがかかる許認可は買い手にとって魅力だ。新規で取るよりM&Aで引き継ぐほうが早い——そう判断する買い手は必ずいる。地域ブランドや老舗の屋号も同じ文脈で評価される。
たとえば産業廃棄物処分業の許可は、申請から取得まで数年を要する自治体もある。こうした許認可を保有する会社は、財務が苦しくても「許可の価値」だけで買い手との交渉テーブルに着ける。
③ 土地・設備などの有形資産がある
工場、倉庫、医療機器、食品加工設備など、有形資産の市場価値が高ければ、純資産がマイナスでも資産価値だけで買収コストを正当化できるケースがある。特に不動産含み益がある場合——帳簿上は低い土地・建物の評価額が、時価では大幅に高くなるケース——は、実質的な純資産がプラスに転じることもある。
修正純資産法(後述)を用いて時価評価を行うと、財務諸表上の債務超過が解消されるケースは珍しくない。固定資産税評価額や路線価だけでなく、不動産鑑定士による鑑定評価額を取得しておくと、交渉材料として有効だ。
④ 人材・技術・ノウハウが蓄積されている
熟練した職人、独自の製造技術、ITエンジニアのチーム、専門的な知見を持つ組織は、数字に現れない「見えない資産」だ。特に人材不足が深刻な業種では、即戦力チームを引き継げることが買い手の最大のメリットになる。
重要なのは、その技術や知見が「組織に定着しているか」という点だ。特定の個人にしか分からない技術は、その人物が退職・離職するリスクを孕む。マニュアル化、OJTの仕組み化、複数人への技術移転が進んでいるほど、買い手の安心感は増す。
⑤ 市場ポジションや地域シェアがある
狭いニッチ市場でのシェア、特定地域における認知度・信頼、業界内ネットワークは、大手が新規参入するうえで最も時間がかかる部分だ。財務が苦しくても「この地域でこの事業をやるなら買ったほうが早い」と思わせられるポジションを持っていれば、それは確かな価値になる。
債務超過でも売却する方法|使えるスキーム
📋 債務超過でも売却する方法|使えるスキームの流れ
債務超過の場合、株式譲渡スキームでは買い手がマイナスの純資産ごと引き受けることになるため、売却価格は原則ゼロ以下になる。しかし、スキームを変えれば話が変わってくる。
事業譲渡スキームの活用
最もよく使われる手法が事業譲渡だ。会社ごとではなく、事業・資産・負債を選択的に切り出して売る方法で、買い手は必要な資産だけを取得できる。売り手の会社(法人)に残った負債は売り手が処理することになるが、事業だけを売ることで「事業の価値」に対して対価を受け取ることができる。
注意点は以下の通りだ。
- 消費税や不動産取得税など譲渡コストが株式譲渡より高くなる
- 従業員・取引先への個別同意取得が必要になる
- 売り手法人に残った負債の処理(清算・自己破産等)が別途必要になる場合がある
- 許認可は原則として引き継げず、買い手が新規取得するケースがほとんど(例外あり)
第三者割当増資との組み合わせ
買い手に新株を引き受けてもらうことで資本を注入し、まず債務超過状態を解消してから株式を譲渡するという手順を踏むケースもある。増資後に支配権が移転すると、段階的なプロセスが税務上どう扱われるかを事前に税理士と確認しておく必要がある。
DES・DDSの活用
DES(デット・エクイティ・スワップ)は、債務を株式に転換する手法だ。金融機関や大口債権者が債権を放棄して株主になることで、負債が消えて純資産が改善する。DDS(デット・デット・スワップ)は、短期債務を長期の劣後ローンに切り替えることで財務を安定させる。いずれも金融機関の協力が前提になるため、事業再生の文脈で進む案件に多い。
これらのスキームは複雑で、弁護士・税理士・公認会計士が連携して設計するのが基本だ。M&A仲介会社を選ぶ際には、こうした複合スキームへの対応実績があるかを必ず確認してほしい。
赤字・債務超過会社の企業価値評価はどう行われるか
財務が悪化している会社の価値評価は、通常の健全企業よりも複雑だ。主に使われる手法を整理しておこう。
EBITDAで収益力を見る
EBITDA(税引前利益+支払利息+減価償却費)は、財務構造や税務戦略の影響を除いた「稼ぐ力」を示す指標だ。役員報酬が過大に設定されて利益が圧縮されている会社では、オーナー報酬を市場水準に修正した「正規化EBITDA」が実態に近い。帳簿上は赤字でも、役員報酬を適正水準に修正するだけでEBITDAがプラスに転じるケースは少なくない。
正規化EBITDAを算出する際に見直すべき主な項目は次の通りだ。
- 役員報酬・役員への貸付金の返済
- オーナー個人の経費が会社経費として計上されているもの
- 家族従業員への過大な給与
- 一時的な特別損失(災害損失・固定資産売却損など)
- 関連会社との不合理な取引価格
修正純資産法で実態を把握する
時価ベースで資産・負債を洗い直す修正純資産法は、収益力より資産価値が重要な業種で使われる。帳簿上は債務超過でも、不動産の含み益や在庫・設備の適正評価によって修正純資産がプラスに転じることがある。この評価を行う際には、不動産鑑定士や設備の専門家を交えた時価評価が必要だ。
DCF法は赤字会社では難易度が高い
将来キャッシュフローを割り引いて現在価値を算出するDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法は、赤字会社では使いにくい。黒字転換の見通しが立たないと前提条件を置けず、恣意的な数字になりやすいからだ。ただし、明確なターンアラウンドストーリー(赤字から黒字への回復計画)がある場合は、DCFが最も説得力を持つ評価手法になり得る。
売却前に打っておきたい「リカバリー」アクション
役員報酬・経費の構造を整理する
過大な役員報酬、オーナー個人の経費の社費計上、家族への給与支払いなどは、買い手から「利益隠蔽」と見られやすい。売却を決意したら、少なくとも決算1期分は適正な数字で決算を組んでおくことが望ましい。報酬や経費の正常化後に「黒字化」が見えてくると、売却価格の交渉で有利になる。
不採算部門・事業を切り離す
複数の事業を展開している場合、足を引っ張っている不採算部門を切り離してから売却する手もある。本業以外の赤字事業を整理し、コアとなる事業だけをクリーンな状態で提示することで、買い手の評価が素直に上がる。ただし、弁護士・税理士を交えて慎重に進める必要がある。事業の切り離しそのものにコストと時間がかかる点も考慮に入れてほしい。
簿外債務・偶発債務を把握しておく
デューデリジェンス(DD)で簿外債務が出てくると、交渉が一気に難しくなる。未払残業代、係争中の訴訟リスク、連帯保証の存在、環境汚染リスクなどを事前に把握し、開示できる状態にしておくことが誠実な売り手の姿勢であり、M&A成立率を高める。
買い手は、DDで想定外のリスクが出るたびに価格を下げるか、最悪の場合は交渉を打ち切る。「開示しなければバレない」という発想は短期的には有利に見えても、最終的には表明保証違反として損害賠償請求につながるリスクがある。
金融機関との関係を整理する
債務超過の場合、メインバンクや保証協会との関係が売却スキームに直結することが多い。返済猶予(リスケ)中の場合は特に、金融機関への事前相談・根回しが必要になる。M&A後の借入返済方針を買い手と金融機関の間で調整できるかどうかが、案件成立の鍵を握るケースも多い。
実際の売却事例(匿名・概要)
事例①:赤字の地方印刷会社を事業譲渡で売却
従業員12名の地方印刷会社。3期連続赤字・債務超過で廃業を検討していたが、地元官公庁・医療機関との長期取引関係と熟練オペレーターチームに価値を見出した同業大手が事業譲渡に名乗りを上げた。設備・顧客契約・従業員を引き継ぎ、旧法人は解散。オーナーは従業員の雇用を守れたことに満足していた。事業譲渡対価は設備の時価評価と受注残の評価を合算して算出された。
事例②:債務超過の介護施設を株式譲渡で売却
指定を受けた通所介護施設(デイサービス)で、過去の設備投資が重荷になり債務超過に。しかし介護報酬収入は安定しており地域シェアも維持していた。介護分野への参入を急ぐ異業種大手が第三者割当増資で資本注入し債務超過を解消した上で株式を取得。オーナーは段階的に経営移管を完遂した。
事例③:赤字のITベンチャーを技術評価で売却
クラウド関連のSaaS企業で、開発投資が先行して3期連続赤字。しかし独自開発のデータ処理技術とエンジニアチームが評価され、同業の上場企業が技術・人材獲得目的でM&Aを実施。会計上の赤字より「このチームを一から採用・育成するコスト」と「技術の希少性」が価格の根拠となった、いわゆるアクハイヤー型のケースだ。
よくある質問(FAQ)
Q. 赤字が何期続いていると売れなくなりますか?
期数そのものより「赤字の原因と将来見通し」が重要だ。3期赤字でも改善余地があれば買い手はつく。逆に1期の赤字でも構造的な問題(市場の縮小、技術的陳腐化)がある場合は厳しい。財務の悪化トレンドと事業の実態を切り分けて説明できるかが鍵になる。
Q. 債務超過でも会社は売れますか?株式に価値はつきますか?
純粋な株式価値としてはマイナスになるため、株式譲渡での売却価格は原則ゼロだ。ただし、事業価値・資産価値・許認可価値などに対して「プレミアム」を乗せてもらえる交渉は可能だ。また事業譲渡スキームに切り替えることで、実質的な対価を受け取れるケースもある。
Q. 銀行のリスケ中でもM&Aはできますか?
できるが、金融機関との調整が必要だ。リスケ中の借入をM&A後に買い手が引き継ぐのか、売却対価で一括返済するのか、あるいは債権譲渡・DESを絡めるのかを、早期に金融機関・買い手・アドバイザー間で合意形成する必要がある。秘密裏に進めると後で問題が発生するため、メインバンクへの早期相談を推奨する。
Q. 保証協会付き融資の個人保証はM&A後に外れますか?
M&Aで会社の所有権が移転しても、旧オーナーの個人保証が自動的に外れるわけではない。新オーナーが保証を引き継ぐか、返済完了・借換等によって解除する必要がある。これはM&A条件の交渉で最初から明示的に取り上げるべき重要事項だ。
仲介会社選びのポイント|赤字・苦境案件の経験があるかを確認する
💡 仲介会社選びのポイント|赤字・苦境案件の経験があるかを確認するのポイント
- 財務悪化案件の取扱実績があるか:成功事例があるかを直接聞く
- 事業譲渡・DESなどの複合スキームを提案できるか:株式譲渡一辺倒の会社は避ける
- 弁護士・税理士との連携体制があるか:スキーム設計には法務・税務の専門家が不可欠
- 成功報酬型か、着手金型か:財務が苦しい局面では着手金・月額報酬の負担が重くなる点に注意
- バイヤーリストの規模と質:赤字案件を前向きに評価できる買い手候補を持っているか
- 金融機関との調整実績があるか:リスケ中・DES案件の経験を確認する
まとめ|赤字・債務超過でも諦めるのは早い
赤字・債務超過だからといって、M&Aの可能性がゼロになるわけではない。重要なのは「財務諸表に映らない価値があるかどうか」と「適切なスキームを設計できるかどうか」の2点だ。
- 許認可・顧客基盤・人材・有形資産など非財務的価値を棚卸しする
- 事業譲渡・増資・DESなど複数のスキームを検討する
- 売却前に役員報酬・経費の正常化を行い、実態の収益力を示す
- 簿外債務・偶発リスクを事前に把握・開示できる状態にする
- 金融機関との関係を整理し、M&A後の借入処理方針を早期に固める
- 赤字案件・複合スキームの実績がある仲介会社に相談する
廃業という選択肢を取る前に、一度M&Aの可能性を専門家に診てもらうことをお勧めする。売れないと決めつけているのは自分だけかもしれない。財務が苦しいほど、時間は敵だ。動くなら早いほうがいい。

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