会社譲渡と事業譲渡の違いを徹底比較|株式譲渡・会社分割の税金差は最大2倍【図解】

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M&Aの相談を受けていると、「株式譲渡と事業譲渡、どっちがいいんですか?」という質問を本当によく受ける。当然の疑問だ。スキームの選択は、税負担にも手続きの複雑さにも大きく影響する。間違ったスキームを選ぶと、本来払わなくてよかった税金が数千万円単位で発生することもある。実務を10年近く経験してきた立場から、3つの主要スキームを徹底的に比較していく。

目次

M&Aスキームとは?まず3つの手法を整理する

M&Aには大きく分けて3つの基本スキームがある。

  • 株式譲渡:会社の「株式」を売る
  • 事業譲渡:会社内の「特定の事業」を売る
  • 会社分割:会社の一部を切り出して別会社に引き継がせる

それぞれ「何を売るか」が根本的に異なる。株式譲渡は会社そのものの株式を売り、事業譲渡は特定の事業を売り、会社分割は組織再編を伴う切り出しだ。この違いが、税務・手続き・許認可のすべてに波及する。

なぜスキームの選択が重要なのか

スキームによって以下が大きく変わる。

  • 売り手・買い手それぞれの税負担
  • 従業員・契約・許認可の引き継ぎ方法
  • 手続きの複雑さ(期間・専門家コスト)
  • 引き継ぎたくない資産・負債の扱い
  • クロージングまでに要する時間

M&Aの交渉テーブルでは、スキームを巡る議論が必ず起きる。自分の希望と買い手の意向をすり合わせるためにも、各スキームの特徴を把握しておくことが交渉の土台になる。

株式譲渡|最もシンプルで中小企業M&Aの主流

中小企業M&Aで最も一般的なのが株式譲渡だ。オーナーが保有する株式を買い手に譲渡することで、会社の支配権が移転する。「会社ごと売る」イメージと思っていい。会社に紐づく資産・負債・契約・従業員・許認可、すべてが買い手に包括的に引き継がれる。

中小企業庁が公表している統計でも、中小M&Aにおける株式譲渡の利用割合は全体の7割以上を占めており、事実上の標準スキームといえる。

株式譲渡のメリット

①手続きがシンプル

株主間で株式を売買するだけ。取引先契約や許認可を個別に引き継ぐ手続きが原則不要なため、M&Aのスピードが上がりやすい。クロージングまでの期間は、規模にもよるが3〜6か月が目安だ。

②売り手の税負担が軽い

個人オーナーが株式を売った場合、譲渡所得として約20.315%の申告分離課税が適用される(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)。他のスキームと比べて最も税効率が高い。

③事業継続性が高い

会社の法人格がそのまま続くため、取引先や従業員への影響が最小限で済む。特に長年の取引実績・ブランド・信用を引き継ぎたい場合に有効だ。

④許認可が自動的に承継される

建設業許可、医療・介護系の指定、酒類販売免許など、事業価値の核となる許認可が引き続き有効なまま継続する。許認可の取り直しコストや期間的ロスを回避できる点は、特定業種では決定的なメリットになる。

株式譲渡のデメリット・注意点

①簿外債務も引き継ぐ

買い手は会社のすべてを引き継ぐため、決算書に出ていない潜在的な債務(未払い残業代・訴訟リスク・環境規制違反・税務リスクなど)も承継してしまう。これが買い手のデューデリジェンス(DD)を厳しくする主因になる。

②事業の一部だけを売ることができない

複数事業を持つ会社の場合、「この事業だけ売りたい」というニーズには株式譲渡は対応できない。

③少数株主問題

株主が複数いる場合、全員からの同意・買取が必要になる。創業時に従業員や親族に株式を分散した会社は、事前に整理しておくことを強くお勧めする。

株式譲渡が向いているケース

  • 単一事業を営む中小企業
  • オーナーが株式の大半を保有している
  • 財務が比較的クリーンで簿外リスクが少ない
  • 建設業・医療・介護など許認可が重要な業種
  • 売却後、経営から完全に退きたいオーナー

事業譲渡|一部だけを切り離して売る手法

事業譲渡は、会社が保有する特定の事業(例:飲食部門だけ、EC事業だけ)を売買する手法だ。株式ではなく、事業に紐づく個別の資産・負債・契約を契約書に列挙して譲渡する。「会社はそのままに、一部の事業だけ売りたい」というニーズ、または「特定の事業を買いたいが負債は引き継ぎたくない」という買い手のニーズに応える手法だ。

事業譲渡のメリット

①売る範囲を選べる

売りたい事業・資産だけを切り出せる。引き継ぎたくない負債を含めないことも契約書で調整可能だ。不採算部門を切り離し、残った事業に経営資源を集中させる再編手段としても使われる。

②買い手が特定リスクを回避しやすい

引き継ぐものを契約書で明確に限定できるため、買い手が簿外リスクを強く嫌がる場面で提案されることが多い。DDコストを抑えたい買い手にとっても魅力的なスキームだ。

③競業避止義務の設定が可能

会社法上、事業譲渡においては譲渡側に競業避止義務が生じる(同一市町村・隣接市町村での同一事業を20年間禁止)。買い手にとっては競合リスクを法的に抑制できるメリットがある。

事業譲渡のデメリット・注意点

①個別に引き継ぎ手続きが必要

取引先との契約は相手方の同意が必要。従業員も個別に転籍同意を得なければならない。関係先が多い場合、この作業量が膨大になる。クロージングまでの期間も長くなりがちだ。

②許認可は原則引き継がれない

建設業許可や医療法人の許認可は、買い手が新たに取得し直す必要がある場合がほとんど。許認可の取得に数か月を要する場合、それだけディールが止まる。

③売り手の税負担が重い

事業を売った会社(法人)には法人税(実効税率約30〜35%)が課税される。さらに手元に残った現金を個人に出すには配当課税も発生し得る。個人オーナーが最終的に受け取るまでに、実質的な税負担は株式譲渡の2倍近くになることもある。

事業譲渡が向いているケース

  • 複数事業を持ち、一部だけを売りたい
  • 特定の不採算部門を切り離して会社をスリム化したい
  • 買い手が簿外リスクを強く嫌がる
  • 許認可を持たない、または新規取得が容易な業種(例:一般的な小売・IT・コンサルティング)

会社分割|組織再編を伴う高度な手法

会社分割は、会社法上の組織再編行為のひとつ。事業の一部を別会社(既存会社または新設会社)に引き継がせる手法だ。事業譲渡との最大の違いは「包括承継」である点。個別に契約や資産の名義変更をしなくても、分割計画書に基づいて一括して承継される。

会社分割の2種類:吸収分割と新設分割

吸収分割:既存の会社(買い手)に事業を承継させる。買い手がすでに法人を持っている場合に使われる。

新設分割:新しく設立した会社に事業を承継させる。スピンオフや分社化の場面で使われることが多い。持株会社(ホールディングス)体制への移行にも活用される。

会社分割のメリット・デメリット

メリット

  • 包括承継のため、契約相手方の個別同意が原則不要
  • 税制適格要件を満たせば、課税なしで事業を切り出せる(税制適格分割)
  • 大規模な組織再編や複雑な事業切り出しに対応できる
  • 持株会社体制への移行やグループ再編と組み合わせやすい

デメリット

  • 手続きが複雑で時間がかかる(登記・公告・株主総会決議など)
  • 弁護士・税理士・司法書士など専門家コストが高い
  • 中小企業には過剰なスキームになるケースが多い
  • 労働契約承継法の適用があり、従業員への通知・協議義務が生じる

会社分割が向いているケース

  • 比較的規模の大きい企業・グループ再編
  • 事業を切り出した後、残存会社と切り出した会社を別々に活用したいケース
  • 税制適格要件を活用して課税コストを抑えたいケース
  • 持株会社体制への移行を検討している企業

3スキームの比較表

比較項目 株式譲渡 事業譲渡 会社分割
売却対象 株式(会社全体) 特定の事業・資産 特定の事業
手続きの複雑さ
売り手の税負担 低(約20%) 高(法人税+配当課税) 条件次第(適格なら低)
許認可の承継 自動承継 原則不可(再取得必要) 包括承継(原則可)
従業員の引き継ぎ 自動承継 個別同意が必要 包括承継(労契法の手続き要)
負債の承継 すべて引き継ぐ 選択可能 分割計画書次第
クロージングまでの期間目安 3〜6か月 4〜8か月 6か月〜1年以上
中小企業への適合性

スキーム選びの判断フロー

どのスキームを選ぶべきか迷ったとき、相談者に最初に投げかける3つの質問がある。

Q1:会社全体を売りたいか、事業の一部だけを売りたいか?
会社全体を売るならまず株式譲渡を検討する。一部だけを売りたいなら事業譲渡または会社分割を検討する。

Q2:許認可は事業の核心か?
建設業・介護・医療など許認可が事業価値の根幹となる業種は、許認可が自動承継される株式譲渡か会社分割が有利だ。事業譲渡を選ぶと、買い手が許認可を取り直す間、事業が止まるリスクがある。

Q3:売却後の税負担をできるだけ抑えたいか?
個人オーナーが株式を売るなら株式譲渡(約20%課税)が最も税効率が高い。事業譲渡では法人税+配当課税の二重課税が発生しやすい。手残りの金額が大きく変わるため、事前に税理士と試算することを強くお勧めする。

買い手との調整が必要なケース

スキームは売り手だけで決められるわけではない。買い手が「簿外債務が怖いから事業譲渡にしてほしい」と主張することも珍しくない。実務では「まず株式譲渡で交渉スタート→DDの結果を受けて事業譲渡に変更」というケースも起こりうる。スキームは柔軟に動く前提で交渉を進めることが重要だ。

交渉の途中でスキームが変わっても慌てないよう、各スキームの税負担と手続きコストをあらかじめ試算しておくことをお勧めする。最初から「株式譲渡が第一希望、事業譲渡でもこの条件なら受け入れられる」という複数シナリオを持っておくと、交渉がスムーズに進む。

スキーム変更が起きる「現実」を知っておく

M&Aの実務では、当初合意したスキームが途中で変わることがある。特に多いのが、DDの過程でリスクが発覚したことをきっかけに、株式譲渡から事業譲渡に変更するケースだ。

環境リスク・税務リスク・労務リスクなど、決算書には表れていない潜在的な問題が浮上すると、買い手は「会社ごと引き継ぐのは難しい」と判断しやすい。その場合、リスクのある資産・負債を除いた事業部分だけを事業譲渡で取得するスキームへの変更が提案される。

売り手にとっては税負担が増えることになるが、スキームを変更しなければM&A自体が破談になる可能性もある。こうした局面で「どこまで譲れるか」を事前に考えておくことが、最終的な売却成功率を高めることにつながる。

スキーム変更が起きたとしても慌てないよう、アドバイザーや税理士と「株式譲渡が通らなかった場合の代替シナリオ」をあらかじめ検討しておくことを強くお勧めする。

よくある質問(FAQ)

Q:株式譲渡と事業譲渡、どちらが税金的に有利ですか?

A:個人オーナーが会社の株式を売る場合、株式譲渡のほうが圧倒的に税率が低い(約20%)。事業譲渡の場合、会社(法人)に法人税が課税され、さらにその資金を個人に移す際に配当課税が重なる。手元に残る金額は、事業譲渡のほうが数百万〜数千万円単位で少なくなるケースがある。ただし、税務状況は個人差が大きいため、必ず税理士に試算を依頼してほしい。

Q:建設業など許認可が必要な業種は、どのスキームが向いていますか?

A:株式譲渡が最も適している。株式譲渡では法人格がそのまま継続するため、建設業許可・産業廃棄物処理業許可・酒類販売免許などの許認可が自動的に承継される。事業譲渡を選ぶと、買い手が許認可を新規取得するまでの期間、事業を継続できないリスクがある。許認可が事業価値の核心である業種では、スキーム選択が特に重要だ。

Q:事業の一部だけを売りたい場合、事業譲渡と会社分割どちらを選ぶべきですか?

A:中小企業であれば、まず事業譲渡を検討するのが現実的だ。会社分割は包括承継という点でメリットがあるが、手続きが複雑で時間・コストがかかる。取引先や従業員の数が少ない案件であれば、事業譲渡の個別同意手続きも現実的な負担範囲に収まることが多い。規模が大きく、関係先が多数ある場合は会社分割の検討価値が上がる。

Q:株主が複数いる場合、株式譲渡はできますか?

A:できるが、すべての株主から株式を買い取る必要がある。少数株主が協力的でない場合や、所在不明の株主がいる場合は手続きが複雑になる。売却を検討し始めた段階で、株主構成を早めに整理しておくことが重要だ。株主整理には時間がかかるケースもあるため、M&A検討の1〜2年前から着手することをお勧めする。

まとめ|3スキームの使い分けポイント

  • 株式譲渡:シンプルで税負担が軽い。中小企業M&Aの主流。許認可業種にも最適。まずここから検討すべき
  • 事業譲渡:一部売却・負債の切り離しに有効。ただし税負担と手続きコストが高く、許認可の再取得も必要になる
  • 会社分割:大規模・複雑な組織再編向け。税制適格なら課税を抑えられるが、中小企業には過剰になることが多い

スキームの選択は、税負担・許認可・手続きコスト・買い手の意向など多くの要素が絡み合う。最終的には仲介会社や税理士・弁護士と連携しながら決定することになるが、経営者自身が「なぜこのスキームなのか」を理解していることが、交渉で主導権を持つ鍵になる。

M&Aは一生に一度の大きな決断だ。スキームへの理解を深め、後悔のない売却を実現してほしい。

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この記事を書いた人

M&A仲介実務10年、累計成約60件超。元大手仲介会社シニアアドバイザー。
「経営者の人生に寄り添う」をモットーに、中小企業の事業承継からIPO準備企業のバイアウトまで幅広く支援。業界特化型M&Aに強み。表面的な価格算定だけでなく、オーナー経営者の売却後の資産設計・ライフプランまで見据えた戦略提案を得意とする。

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